2016年画廊企画PART4
有地好登 展
-虚実・狭間の美 -
Lost shape-sorrow(失われた形–悲しみ)
エッチング、アクアチント、エンボス、シン・コレ(赤金紙にコラージュ)、アルシュ紙
81x106cm 2014 ed 8
2016年6月11日[土] ― 19日[日]
Am10:30 ―PM7 :00 (火曜休廊)
<Lost shape シリーズ>についての雑感
四季の姿は、春には若葉が芽吹き、夏には青葉に木漏れ日が揺れ、秋には天地が色を染め、冬には木の葉が踊ります。その時々の様相は人間の感情のように変転し、いつしか静寂な世界に帰結する。それは落ち葉が風に吹かれて隅にたまるように、ある時は記憶に残り、ある時は不定形な塊として脳裏に映し出します。そして変転する景色がカラカラと音色を奏でて消え去るように生物の命(魂)が消失する。
私の作品は、これら日々の出来事の中で派生・消失する光景と不確実な記憶を自己の感情に重ね合わせることでイメージの形成へと繋げている。 それは色・形・線が白い空白の平面を彷徨しながらパズルのように組み合わされてある形として生まれ変わってゆく。
今回の主な作品は、自然から災害を被った時や社会から非合理な圧力を受けた時、怒り・悲しみ・苛立ちの感情が起る。 これら可視化できない人間の心情や表情を、ある心象風景や隠喩的な風景として不可思議な造形として作品にしている。 それは氷のような閉ざされた虚と実の狭間の美を表出しようとしている事かもしれない。
制作過程に於いては鏡面に研磨された銅面に鋭い刃物で痕跡をつける、又は薬品で鏡面を荒らして行く、そこにはアクアチントの腐蝕で出来る泡の生成と消失が絶え間なく続き、無機質で深遠な版面が時間の痕跡を包含した有機的な版へと変貌して行く。 そこには曖昧な形象から固有な形象へと変転し、新しい銅(赤がね)の輝きを覗かせながら不可思議な造形美への転化と定着が行われているように思っている。
Lost shape(失われた形)シリーズの制作方法
生物(木の葉や花弁)や人工物(建造物)が崩壊・離散・集積する中に、擬人的な顔又は面(つら)や事象を内包したイリュージョナルな図象として創出する事を考えている。
主にエッチング、アクアチント技法を繰り返して製版し、赤金紙又は銀紙刷りによるカラー銅版画の作品です。カラー刷りでは色の沈降・不透明感を抑え、極力色の透明感や発色の美しさが出るように製版や印刷を心掛けている。またコラージュした赤金紙又は銀紙を雁皮刷りの方法で刷る事で質感と装飾性を加味し、色インクでは出せない鈍い硬質な色面とマチエールを試みている。 空刷りはイメージを構成する要素の一つで、凹凸を平面空間に置くことで空間領域の広がり(図柄より異なった空間を創出し、意外性を持たせる)を意識させる。 変形画面は一般的に安定を意識させる方形ではなく、イメージに即した不安定感や緊張感を醸し出す為に直線的な切断面を用いて画面を構成している。
Lost shape-ruin(失われた形—廃墟) |
Lost shape – garland (失われた形−花冠) |
Lost shape-left face(失われた形–左面) |
Lost shape-stardust(失われた形–星屑) |